店頭販促が“やって終わり”にならないために [前編]

 

(左)ハイセンスジャパン株式会社 商品管理部 商品プロモーションG  次長  藤田 祐史 様

(右)株式会社ディー・エム広告社 ビジネスプロデュース部リレーションセールス課 グループリーダー 千葉 拓(インタビュアー)

2010年に日本法人として設立され、テレビ販売からスタート

テレビ、冷蔵庫、洗濯機、エアコンなど、暮らしに身近な家電製品を展開するハイセンスジャパン株式会社。2010年に日本法人として設立され、テレビ販売からスタートし、やがて冷蔵庫・洗濯機・エアコンへと領域を広げ、日本市場での存在感を高めてきました。

一方、家電メーカーにとって販売促進キャンペーンは、単なる応募施策ではありません。販売店での存在感づくり、購入検討者の背中押し、ブランド体験、問い合わせ対応、購買証明の確認、景品配布、そして終了後の分析まで、複数の要素が複雑に絡み合う取り組みです。

今回は、ハイセンスジャパン株式会社の商品プロモーションを担う藤田さまと、キャンペーン運営を支援してきた株式会社ディー・エム広告社の千葉が、複数回にわたるキャッシュバックキャンペーンを振り返ります。現場の温度が感じられるエピソードを交えながら、メーカー販促担当者が直面しやすい課題と継続改善のリアルを掘り下げました。

テレビから白物家電へ。日本市場で広がるブランドの接点

 

千葉

まずは、ハイセンスジャパンについて、読者の皆さまに向けて簡単にご紹介いただけますか。日本法人は2010年にスタートし、2025年には15周年を迎えられたそうですね。

藤田様

はい。ここまでを振り返ると、ハイセンスジャパンは2010年にテレビから日本市場での展開を始め、その後、冷蔵庫、洗濯機、エアコンといった白物家電へ領域を広げてきました。テレビの印象をお持ちの方が多いと思いますが、今は白物家電の認知も少しずつ広がっています。次の20年、30年に向けて、テレビだけではなく生活家電全体をさらに伸ばしていくことに力を入れています。

千葉

品質や機能だけではなく、暮らしの中で「これで十分」ではなく「これがいい」と感じていただける商品を、より幅広いカテゴリーで届けていくということですね。

藤田様

そうですね。家電市場は競争が激しく、性能、価格、デザイン、販売店での見え方、キャンペーン、そのすべてが購買に影響します。だからこそ、商品そのものに加えて、お客様とどのような接点をつくるかも重要だと考えています。

販売の落ち込みと競合施策が、最初の一歩を後押しした

 

千葉

キャンペーンを始められたのは、どのような背景からだったのでしょうか。

藤田様

最初に実施したのは2023年の夏です。当時は私たちにも十分な経験がなく、正直、何もわからないところからのスタートでした。きっかけは、テレビの認知が広がりつつある一方で、販売が落ち込んだ時期があったことです。性能や価格など複数の要因がある中で、競合各社はキャッシュバックキャンペーンを実施していました。上司とも話し、「対抗するためには、私たちもやるしかない」と始めたのが最初です。

千葉

現在、キャッシュバックキャンペーンはどのような位置づけになっていますか。

藤田様

第一の意義は、もちろん販売促進です。加えて、今はブランディングの意味も大きいと思っています。最初は競合への対抗策として始めましたが、今では社内で「なくてはならない存在」と言えるほど重要な施策になっています。店頭で存在感を出し、販売店に「今この商品を提案しやすい」と感じていただき、購入を検討されているお客様の最後のひと押しをする。実施しないことが販売やシェアに影響しかねない、それくらいの位置づけです。

千葉

テレビや大型家電はネットで情報収集される一方、最終的には店頭でサイズ感や質感を確かめたいというニーズも強いですよね。

藤田様

まさにそうです。ECの比率は高まっていますが、大型家電は一度見てから決めたいというお客様が多い。だからこそ、販売店での露出、売場づくり、販促施策が非常に重要です。

社内・販売店・制作・システムを同時に動かすメーカー販促の現実

 

千葉

キャンペーンは実施期間に入ってから忙しいと思われがちですが、実際には始まる前から相当大変ですよね。

藤田様

本当にそうです。企画だけではなく、社内調整、予算確認、販売店との調整、対象商品の確認、告知物、Webページ、応募規約、景品設計、問い合わせ対応、個人情報の扱い、景品配布、終了後の報告まで、やることが非常に多いです。外から見ると一つの施策ですが、社内の複数部門、販売店、制作・運営会社など多くの関係者が動きます。

千葉

「これで決定」と言われた後に、デザインや対象商品、販促物、文言が変わる。それでも開始日は動かせない、というのは販促担当者の“あるある”ですね。

藤田様

ありますね(笑)。

千葉

弊社が最初にご一緒した2024年冬の案件も、提案までの期間が短く、かなりタイトでした(笑)。デザイン、販促物、家電量販店向け発送、システム、事務局、景品手配を並行して進めました。

 

藤田様

当時のデザインのやり取りも印象に残っています。もともとのブランドカラーである緑を、年末らしく赤にしたいという話が上司から出ました。中国(編集注: ハイセンスジャパン株式会社の本国は中国)では赤がおめでたい色とされるため、キャッシュバックで年末のお客様に喜んでいただきたい、という意図でした。単なる色変更ではなく、施策の季節感や背景まで含めた判断でしたね。

千葉

夜遅くまで何度もやり取りしたことを覚えています。今振り返ると、初回からブランド側の思いと現場の制約をすり合わせるプロジェクトでしたね。

終了後の振り返りまで設計できるか

 

千葉

今回は成功した話だけでなく、ベンダー切り替え前に感じていた課題も伺いたいです。

藤田様

キャンペーンを実施するだけでも大変です。立ち上げて、告知して、応募を受け、問い合わせに対応し、景品を配布して終了する。そこまでで一度燃え尽きてしまう。本来は「何が良かったか」「どこで離脱したか」「問い合わせはなぜ発生したか」「次回はどこを改善するか」まで見たいのですが、次の案件が始まると十分に振り返れないこともありました。

千葉

毎回は単発施策に見えても、実際には顧客接点の蓄積です。前回の学びを次回に活かせるかで、同じ予算でも施策の質は変わります。

藤田様

もう一つは問い合わせ対応です。キャッシュバックは金銭的なメリットが大きい分、「応募できているか」「いつ受け取れるか」「レシートはこれでよいか」「不備の理由は何か」といった不安も生まれます。件数だけではなく、その背景にあるお客様の不安をどう減らすかが重要です。

コストだけでなく、消費者視点の景品設計へ

 

千葉

最初に弊社へお声がけいただいたときは、コンペ形式でした。当初の評価ポイントとして、まずコスト面があったと伺っています。

藤田様

はい。もちろんコストは重要でした。販促担当者としては、限られた予算の中で最大限の効果を出さなければいけません。ただ、コストだけで決めたわけではありません。

千葉

景品ラインナップの見直しも、一つのポイントでしたよね。弊社は以前から、家電領域でPayPayさんと連携したキャンペーン運営の経験がありました。そこで、従来の現金に加え、PayPayポイントを選べる仕組みをご提案しました。

藤田様

他社からも「選べるデジタルギフト」の提案はありましたが、コスト面で採用に踏み切れないことがありました。DMKからPayPayさん(編集注:PayPay株式会社)を紹介いただいたことで、現金とデジタルギフトの二本柱をつくれたのは大きかったです。PayPayさんは業界でも最もメジャーな電子決済サービスの1つなので、これが可能になったのは良かったですね。

担当者自身の先入観を、実データが覆した

 

千葉

実際に運用してみると、現金系とPayPayポイントは概ね半々に近い割合で選ばれました。

藤田様

あれは本当に意外でした。私自身が現金派だったこともあり、「世の中も圧倒的に現金だろう」と思っていたんです。ところが結果は半々。それ以降も概ね同じような傾向が続き、キャッシュレスがここまで浸透しているのかと驚きました。

千葉

担当者の感覚だけで決めず、選択肢を用意して実際の選ばれ方を見ることが重要だとわかるエピソードですね。

藤田様

そう思います。景品は魅力的にしたい一方、予算、運用、販売店の説明しやすさ、お客様のわかりやすさも両立させなければなりません。単純に種類を増やすのではなく、使いやすく、受け取りやすい選択肢にすることが大切です。

店頭、Web、応募、購入、審査、受け取りを一つの体験として設計する

 

千葉

初回はシステム、事務局、景品、販促物、物流まで含めて対応しました。三角POPなどの店頭販促物を制作し、家電量販店へ発送する業務もありました。

藤田様

店頭展開は非常に重要です。キャンペーン情報が店頭で伝わらなければ、購買の後押しになりません。お客様は店頭で見て、スマートフォンで調べ、家で比較し、ECを見て、再び店頭に戻ることもあります。どこかで情報がわかりづらいと離脱につながります。

千葉

ハイセンスさんのキャンペーンは、購入前に抽選へ参加し、当選後に対象商品を購入、レシートや保証書を登録する流れでした。抽選して終わりではなく、購入、登録、審査、受け取りまで進んでいただく必要があります。

藤田様

応募数やアクセス数だけでは成功とは言い切れません。最終的に販売やブランド体験につながったか、どこで止まったか、販売店別に違いがあったか、問い合わせが多い理由は何かまで見て、次の改善につなげる必要があります。

マイページとチャットボットで、自己解決できる導線をつくる

 

千葉

複数回ご一緒する中で、大きな改善の一つがマイページによる応募ステータスの見える化でした。

藤田様

高額商品を購入し、キャッシュバックを受ける権利があるはずなのに状況が見えないと、お客様が不安になるのは当然です。

千葉

そこで、レシートや保証書の登録状況、必要な手続きなどをマイページで確認しやすくしました。問い合わせ件数を減らすこと以上に、「問い合わせしなくても安心できる状態」をつくることが重要です。

さらに、応募方法、対象商品、登録期限、レシートや保証書のアップロード、キャッシュバック時期など、繰り返し寄せられる質問にはチャットボットやFAQを活用しました。応募フォームだけでなく、問い合わせ対応まで含めてユーザー体験だと考えています。

藤田様

問い合わせが増えること自体は、ある意味では関心が高い証拠ではありますが、同じ質問が繰り返されると事務局にも社内にも負荷がかかります。お客様が自分で解決できる選択肢を増やすことは、運営効率だけでなくキャンペーンへの安心感にもつながります。


…次回、「成果を左右する、運用の裏側」や「今後の展望」などを語っていただきます。

後編は2026年10月13日公開予定